日経MJ恒例の「日経MJヒット商品番付」は、1971年の創刊時から続く目玉企画の1つだ。単なる売れ行きだけではなく、新規性や消費者への影響も考慮した上で、総合評価に基づき番付を発表してきた。直近では人工知能(AI)や自動運転技術を搭載したミニバン、仮想現実(VR)ゲームなどが上位にランクインしている。これらヒット商品をみると、モノからコトへ消費が移行しているのがわかる。
2017年の消費を読み解くには3つの視点があると考えている。まず1つは(11年3月の)東日本大震災を機に広がった「世のため消費」の一般化だ。団塊ジュニア世代より年下の世代に顕著で、彼らの消費マインドの行き着く先は“日本をよりよい場所にすること”だ。
2つ目がスマートフォン(スマホ)の普及に伴う「いいね!消費」の定着だ。スマホの登場以来、売り手と買い手の間の情報格差が縮小し、消費者の行動が変わっている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の浸透により、“いいね!”につながるネタ消費は今後も増えると予想される。
3つ目が「一人十色(ひとりといろ)消費」の加速だ。情報の供給過多になっている現代、消費者は自らの関心事のみ注目する傾向が一段と強まっており、市場の細分化が続く。つかみ所のない一人十色消費が進んだ結果、ヒットのキーワードは「一目瞭然」だ。製品・サービスの内容や効果が一目でわかりやすい「ワンフレーズ・マーケティング」の時代が到来したといえるだろう。
お知らせ
2017.02.23
POS情報
日経デジタルソリューションセミナーレポート 再編の時代 2017年の流通業界動向と消費トレンドを読む
第1部 いまどきのヒット商品の条件
多様な価値観で市場が細分化
時代のキーワードは「一目瞭然」
第2部 トライアルカンパニー 今後の流通戦略
ITを駆使して効率化を図り
小売業に流通革命を起こす
日本の人口は今後30年で3割減り、それに伴って消費規模も縮小していく。こうした厳しい時代に生き残るには時代に対応した戦略が不可欠で、ムダ・ムラ・ムリの排除が必要だ。
当社の傘下企業でディスカウントストア「トライアル」を運営するトライアルカンパニー(福岡市)は自社開発した高速処理データベースを駆使して、既に購買履歴データ「ID-POS」で100億件のデータを持つ。これに加え、日本経済新聞社が提供する日経POS、マーチャンダイジング・オンが開発したPOS分析ツール「PIano- POS」をそれぞれ活用し、顧客ニーズに即したマーケティングを展開している。データを基に売り場の欠落がないかを定点観測したり、定番・人気商品をタイムリーに見直したりすることで、実際に業績の数字を上げている。
売り場と顧客をつなげるための新しいメディア「リテールメディア」にも注力し、既存のマス広告の代替となるイノベーションを目指す。例えば、レシートクーポンを使ったピンポイントマーケティング。特定の顧客にターゲットを絞り込み、クーポンを提供することでリピート客の拡大や新規のカテゴリーの獲得を狙う。
買い物カートにタブレットを搭載する実証実験に取り組んでいる。顧客がいま買い物をしている売り場のお得情報を提供したり、どこの棚に探したい商品があるかを案内したりするなど、顧客ごとにパーソナライズした情報を発信している。今年はこれにPOSレジ機能を追加し、レジ待ちにかかる時間を従来の10分の1に減らす試みを予定している。
トライアルグループが目指すのはITの力を使った流通革命だ。リテールテクノロジーカンパニーとして小売業の効率化を率先して推進していく考えだ。
第3部 標準化にNO! 今すぐできる商品登録改革 ~日経TMK~
商品登録作業の手間を軽減
流通現場のムダをなくす
小売りの現場では商品登録作業に膨大な手間が必要とされる。登録にはムダや間違いがつきもので、ミス防止のために多大なコストが発生する。従業員の残業がなかなか減らない原因にもなっている。
卸やメーカーの現場も同様で、新商品が出るたび登録作業に迫られる。従来、メーカー側で運営するデータベースには大半の商品情報を登録しており、卸や小売りがそれをそっくり“転写”できれば手間やミスも格段に減少するはずだ。
だが実際にはそうならない。小売業者によって商品に求める項目や登録形式、フォーマットが大きく異なるためだ。仮に共通データベースを使用するとしても、「項目が足りない」「情報漏洩リスクがある」「タイミングが遅い」といった課題が山積していた。
こうした問題を改善するのは、わが社が日本経済新聞社と共同開発した商品登録業務サポートシステム「日経TMK」だ。基本的にどんなフォーマットにも変換することが可能だ。利用者はクラウド上で日経TMKから必要なデータをダウンロードし、独自に欲しい情報を取り入れ、データベース化すればそのまま使用できる。情報項目を随時追加できる。データを直接小売業者に届けることができ、時短や機密情報の保護も実現できる。データ項目を「標準化」して本課題を解決しようとしてきた従来の方法で対応しきれなかった部分を解決しているのが日経TMKである。
日経TMKが見据えるのは流通の商品登録革命だ。流通現場のムダを減らし、創造的な本来業務により多くの時間を割いてもらいたいと考えている。
第4部 個人消費の行方と流通再編
2017年は消費構造が劇的に変化
混迷社会で生き残る流通とは
今年はついに(75歳以上)の後期高齢者が(65~74歳の)前期高齢者を上回り、高齢化社会の加速により消費の現場が大きく変わる。高齢者(後期・前期)の主な消費先は、家事サービス、リフォーム、医薬品など。使い勝手の良さからコンビニエンスストアや宅配、宅食の需要も高まると予想される。
一方、共働き世代の節約はお金ではなく時間だ。電子商取引(EC)サイトを使って自宅で買い物をするのもそのためだ。実際消費の現場ではECサイトがスーパーや百貨店を追い越し、販路が劇的に変化している。
変動する市場を背景に、どんな業界再編が起きるのか、可能性を探ってみたい。百貨店はスケールメリットが効きにくい。特に地方の百貨店はどうやって生き延びるかが課題だ。異業種からM&A(合併・買収)が仕掛けられる可能性もある。
スーパー、コンビニ、家電量販店の勢力地図はほぼ固まった。衣料品チェーンは10兆円市場だが、需要が細分化されて、市場の寡占化は難しい。今後、変化が見込まれるのがドラッグストアだ。垣根を越えたM&Aなど様々な形の動きがあるかもしれない。
目覚ましい革新性で注目されるのが地方発の小売業だ。厳しい商圏で勝ち抜いてきた小売業は自のビジネスモデルを磨き上げ、都市部に進出していくのに十分な成長力がある。これまで流通再編は総合スーパーを軸に進んできたが、これからは食品スーパーが再編の「台風の目」となる可能性を秘めている。
社会は混迷し、消費構造も大きく変わりつつある。だからこそ、何か新しい動きが生まれるのではという期待感を抱いている。