データ分析レポート

2026.04.27

コラム

POSデータを活用した需要予測① ― 売上と気温の相関 ―

日本経済新聞社では、日本全国のスーパーや小売店、ドラッグストア、コンビニエンスストアなどから、独自にPOSデータを収集・蓄積しています。

せっかく大量の定量データがあるのであれば、もっと活用しない手はありません。そこで今回、日経の社員である著者自身も“身近なテーマでデータ分析をしてみよう”と考え、POSデータを題材にコラムを執筆することにしました。

まずこのシリーズでは、「POSデータを活用した需要予測」をテーマに、日経が保有するデータだからこそできる分析をご紹介します。今回はその第一弾として、身近でかつ売上に直接的な影響を与える「気温」と「売上」の関係を定量的に深堀りしていくことにしました。

なお、本コラムは分析の専門家向けではなく、データ分析の経験があまりない方にもイメージを掴んでいただけるよう、分析プロセスを一つひとつ丁寧に追いながら進めていきます。

1. 今回のテーマについて

「暑い日は冷たい飲み物が売れる」「寒い日は温かいものが売れる」という話は非常によく耳にし、当たり前のように感じます。一方で、「暑いとどの程度売れるのか?」や「商品別に売れ行きはどの程度異なるのか?」について、明確に答えられる方は多くないのではないでしょうか。

本コラムでは”誰にとっても身近な指標”であり”需要予測でよく使われる外部要因”である「気温」を取り上げ、「暑いとどの程度売れやすいのか?」や「商品別に売れ行きはどの程度異なるのか?」を定量的に把握するための、実際のデータに基づいた分析を行います。

2. 使用データ

今回の分析では、主に以下2種類のデータを活用しています。

  • 売上データ:日経が保有するPOSデータの地域×大分類別の「千人あたり金額」(月次)
    • 「千人あたり金額」は、千人の客が来店したときに、その商品がいくら売れたかを示します。地域・業態の規模や収録店舗数の変動に関係なく、商品の売れ行きを計ることができる指標です。
      • 算出式:対象店舗・期間での販売金額合計÷対象店舗・期間の来店客数合計×1,000
    • 今回の分析においては、商品単品等ではなく大分類(218分類)別に集計しています。
  • 気温データ:地域別の平均気温データ(月次)

  • 分析対象分類:日経POSの保有する全218の大分類
  • 分析対象期間:2021/2~2026/1(月次)
  • 分析対象店舗:全国約1,000店舗
    • 日本経済新聞社が独自に収集している全店舗から、商業統計と照らし合わせたうえで、地域バランスを考慮して集計対象店舗を選定しています。
  • 分析に活用した数表:
    • 地域×商品分類×年月をキーとして、千人あたり金額・平均気温をそれぞれ紐づけています。
      • 千人あたり金額は、地域×商品分類×年月別に数値が異なります。
      • 平均気温は、地域×年月別に数値が異なります。
    • 利用したデータのイメージ(例)

※ 表は左右にスクロール出来ます。

地域 商品分類 年月 千人あたり
金額(月次)
平均気温
(月次)
北海道 001 豆腐・豆腐製品 2021/02 300円 1.0℃
北海道 001 豆腐・豆腐製品 ・・・ ・・・ ・・・
北海道 001 豆腐・豆腐製品 2026/01 280円 -3.0℃
北海道 002 納豆 2021/02 50円 1.0℃
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
北海道 871 消耗家庭用品ギフトセット 2026/01 3円 -3.0℃
東北 001 豆腐・豆腐製品 2021/02 320円 5.0℃
東北 001 豆腐・豆腐製品 ・・・ ・・・ ・・・
東北 001 豆腐・豆腐製品 2026/01 250円 1.0℃
東北 002 納豆 2021/02 60円 5.0℃
東北 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
東北 871 消耗家庭用品ギフトセット 2021/02 5円 1.0℃
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

3. 分析におけるポイント

いきなり詳細な分析に入る前に、まずは「商品分類別に売上との関連度合いは異なる」という一見当たり前のように感じることを、念のためデータ面から確認しておきます。

日経POSの提供するPOSEYESにて、試しに売上と気温が連動していそうな分類、していなさそうな分類をいくつか選択し、月次での売上推移を見てみると、以下のようなグラフが得られました。

グラフのサンプルイメージ

上のグラフからは、やはり明らかに夏に売上があがるレギュラーアイスのような分類、あるいは冬に売上が上がるチョコレートや鍋つゆのような分類、また一年を通して売上があまり変化しない女性用基礎化粧品のような分類など、明らかに分類ごとに気温との関連度合いが大きく異なることが分かります。

データ分析では、このような「まず感覚的に認識している事象をデータから確認する」ような見方が出発点になることも多いです。

4. 分析指標

さて、商品分類別に気温との関連度合いが大きく異なりそうということをデータ面から簡単に確認したうえで、いよいよ定量的にどの程度異なるのか、という分析に移ります。

程度を定量的に測るための指標として、今回の分析では「相関係数」という指標を採用しました。

  • 相関係数は、ー1~1の値をとり、2つの数値がどの程度一緒に増減するかを定量的に示す指標です。
    正の値は「気温が高いほど売上が増えやすい」、負の値は「気温が低いほど売上が増えやすい」傾向を表します。
    値の絶対値が大きいほど関係は強く、0に近いほど気温との関係は弱いことを意味します。

(イメージ)

グラフのサンプルイメージ

相関係数を用いることで、分類別の売上と気温の関係の強さを数値で比較することができます。
そこで今回は、大分類ごとに売上と気温の相関係数を算出していきます。

5. 分析結果

実際に各分類別の相関係数を算出してみると、例えば『3. 分析におけるポイント』に挙げた4分類の相関係数はそれぞれ以下のようになっています。

商品分類 相関係数
レギュラーアイス 0.811
女性用化粧品 -0.094
鍋つゆ -0.679
チョコレート -0.753

やはり、レギュラーアイス、鍋つゆ、チョコレートなど季節性に応じて売上が上下するように見える分類は相関係数が大きく/小さくなる一方で、女性用化粧品など一年を通じて売上がそこまで変動しないように見える分類は相関係数がゼロに近くなることが分かります。

さて、それではより分析結果を掘り下げるために、売上と気温の相関に応じた3つのカテゴリーに分けてそれぞれ見ていきましょう。

5-1. 気温と強く結びつくカテゴリー(相関係数の値が大きいカテゴリー)

まず、気温と最も強く結びついているのが、気温の上昇とともに売上が伸びるカテゴリーです。相関係数が0.6を超える分類が上位に並び、気温が消費行動に直接影響している様子が明確に表れています。

トップには 麦茶(相関係数 0.818)、レギュラーアイス(0.811) が並び、続いて 麦茶飲料、スポーツ飲料、氷 といった、いわゆる“夏の定番商品”が続きます。これらは「暑さをしのぐ」「水分を補給する」「体を冷やす」といった目的と直結しており、気温上昇がそのまま需要増加につながる典型的なカテゴリーです。

興味深いのは、乾めん(0.711) や 殺虫剤・殺鼠剤(0.704) がこのグループに含まれている点です。乾めんは、夏場に「火を使わずに調理できる」「冷やして食べられる」といった特性が評価されている可能性があり、また殺虫剤・殺鼠剤は、気温上昇に伴う害虫の活発化と需要が連動していると考えられます。

さらに 健康茶飲料、果汁100%飲料、エチケット用品 も上位に含まれており、暑さによる体調管理意識や身だしなみ意識の高まりが、売上に反映されている様子がうかがえます。このカテゴリー群は、気温という外部環境の変化が、そのまま購買行動に結びつく点が大きな特徴です。

■ 全218分類のうち相関係数が大きい10分類

大分類名 相関係数
麦茶 0.818
レギュラーアイス 0.811
麦茶飲料 0.752
スポーツ飲料 0.748
0.745
乾めん 0.711
殺虫剤・殺鼠剤 0.704
健康茶飲料 0.653
果汁100%飲料 0.633
エチケット用品 0.610
5-2. 気温と逆の動きをするカテゴリー(相関係数の値が小さいカテゴリー)

次に、気温が下がるほど売上が伸びる、気温と逆方向の相関を示すカテゴリーです。相関係数はマイナスで、かつ絶対値が大きく、寒さが需要を押し上げる構造がはっきりと確認できます。

最も相関が強いのは ココア・牛乳用ドリンクミックス(-0.814)、緑茶(-0.813) です。温かい飲み物として消費されることが多いこれらの商品は、気温低下とともに需要が高まる傾向が数値でも裏づけられています。続いて チョコレート、インスタントコーヒー など、寒い季節に嗜好性が高まる商品が並びます。

食品分野では、コンニャク、だしのもと、農産乾物、鍋つゆ、即席スープ といった、調理や食卓の「温かさ」に関わるカテゴリーが上位に含まれています。これらは、気温の低下によって食事シーンが変化し、「温かい料理」「煮込み料理」へのニーズが高まることを反映していると考えられます。

このグループは、単なる季節商品というよりも、気温が人の食欲や食シーンを変えることで需要が生まれるカテゴリーと言えます。気温は直接的なトリガーでありつつ、その背後には生活行動や心理的要因が存在している点が特徴です。

■ 全218分類のうち相関係数が小さい10分類

大分類名 相関係数
ココア・牛乳用ドリンクミックス -0.814
緑茶 -0.813
チョコレート -0.753
インスタントコーヒー -0.722
紅茶 -0.691
コンニャク -0.689
だしのもと -0.681
鍋つゆ -0.679
農産乾物 -0.661
即席スープ -0.646
5-3. 気温にあまり左右されないカテゴリー(相関係数の絶対値が小さいカテゴリー)

最後に、気温との相関がほとんど見られないカテゴリーには、食品と食品以外の商品が混在しています。この点は、今回の分析結果を解釈するうえで重要なポイントです。

まず、食品以外の商品については比較的理解しやすい結果と言えます。

男性用頭髪化粧品、生理用品、口中清涼剤、フック類といったカテゴリーは、相関係数がほぼゼロに近く、気温の上下による影響はほとんど確認されませんでした。これらは季節よりも「生活習慣」や「必要なタイミング」によって購入される商品であり、気温が売上変動の主因になりにくいことは直感的にも納得しやすいでしょう。

一方で興味深いのは、食品カテゴリーも同じグループに含まれている点です。

栄養補給食品類、食用油、生タイプ即席カップめん、乳酸菌飲料、ドライフルーツなどは、いずれも食品でありながら、気温との相関が極めて小さい結果となりました。これらは「暑いから/寒いから食べる」というよりも、日常的な食事需要や健康意識、利便性、ストック性によって支えられている商品です。

例えば栄養補給食品類や乳酸菌飲料は、体調管理や健康習慣の一部として購入される側面が強く、気温変動の影響を受けにくいと考えられます。食用油や生タイプ即席カップめんも、家庭内での使用頻度や利便性が比較的安定しており、季節性よりも生活リズムや個人の嗜好に左右されやすいカテゴリーと言えるでしょう。

このように、気温との相関が弱いカテゴリーは単に「季節性がない」というだけでなく、食品であっても必ずしも気温に強く左右されるわけではないことを示しています。

POSデータを用いた分析では、「食品=気温に影響されやすい」という先入観を持たず、商品の役割や利用シーン、購買動機に着目することが重要であることを、今回の結果は示唆しています。

■ 全218分類のうち相関係数の絶対値が小さい10分類

大分類名 相関係数
ベビー食事用品 0.003
栄養補給食品類 0.003
フック類 0.005
ドライフルーツ -0.006
男性用頭髪化粧品 -0.009
食用油 0.010
生理用品 -0.011
口中清涼剤 -0.012
乳酸菌飲料 -0.013
生タイプ即席カップめん 0.014

6. 分析で得られた成果

今回の分析から、商品分類によって「気温の影響の受け方」が大きく違うことが分かりました。この違いを整理することが、需要予測につなげるうえでの一番の成果です。

気温と強く結びつく商品や、気温が下がると売れやすい商品については、過去の売上だけで予測するのではなく、気温を前提に考える必要があります。一方で、気温にあまり左右されない商品は、気温を無理に加味せず、安定した需要を前提に考えた方が現実的です。

今回の分析は、「どの商品で気温を意識すべきか、どの商品では意識しなくてよいか」を整理するためのものです。この切り分けができるだけでも、需要予測の考え方はシンプルになり、無理のない予測につなげることができます。

今回の分析では日経POSデータを活用しましたが、日経POSデータの強みは、全国規模で、長期間にわたり幅広い分類の売上データを扱える点です。地域バランスを考慮した店舗群を有しているため、全国的な傾向をより精度高く捉えることができます。

データの分類ごとの比較や、外部データと組み合わせることで、分析の幅もさらに広がります。

今回のように、難しい分析手法を使わなくても、データを眺めて考えるだけで多くの気づきが得られます。身近なテーマから始めることで、データ分析の面白さも見えてきます。

次回は、別の切り口からPOSデータを見ていく予定です。

サービスに関するお問い合わせ、
御見積りやデモ、
資料請求ご希望の方はこちら