コラム・調査レポート

2024.10.3

食品

日本のコメは本当に不足していた? POSデータで振り返る消費者の動き

 「令和のコメ騒動」は長い夏の終わりとともに落ち着きを取り戻し、品薄感は解消に向かっているようだ。コメの需給ひっ迫は年明けからすでに予測されていたが、8月初旬の日向灘地震と「巨大地震注意」の発出、神奈川西部の地震、下旬からは1週間以上にわたり台風10号の影響が続くなど災害の影響で備蓄需要が高まり約1カ月にわたる騒動となった。この間の消費者の動きを日経POSと日経テレコン「新聞トレンド」(新聞・ニュースへのキーワード出現数)のデータで振り返ってみよう。

 スーパーの「うるち米」について千人当り個数の推移をみると7月29日週は前年同期比26%増、8月5日週で58%増と大幅に伸びている。元々上昇傾向だった売り上げが、日向灘沖(8日発生)、神奈川西部(9日発生)の地震で加速したことがうかがえる。
日本のコメは本当に不足していた? POSデータで振り返る消費者の動き
 地域別にみると、千人当り個数の増加は首都圏・近畿から始まり、8月19日週に北海道・北陸、8月26日週に九州で顕著になっている。このグラフに「コメ 不足」のキーワード出現数を重ねてみると、報道数の増加とともに段階的に全国規模の現象へと展開していった様子がわかる。
日本のコメは本当に不足していた? POSデータで振り返る消費者の動き
 しかし9月に入ると千人当り個数は落ち着き始め、9月9日週に前年割れに転じ、16日週には23%減と大きく下がった。農水省「6年産米のコメ流通情報」の「6年産精米の販売状況(大手卸10社)」によると、8月以降、昨年同期より多くの2024年産のコメが販売されていることがわかる。8月24日以降は販売数が約2倍となっていることからも、供給量は潤沢だったようだ。千人当り個数の前年割れは、8月の買い急ぎにより消費者側の需要が、当座に必要な以上満たされ、買い控えが生じた可能性が高い。
日本のコメは本当に不足していた? POSデータで振り返る消費者の動き
 需要の急激な増加は平均価格の上昇も加速させた。そもそも2022年12月以降、前週比1~2%高程度で上昇していた平均価格が、8月26日週に5%、9月2日週には6%と勢いを増す。9月23日週の平均価格は2,613円で前週比は2%高と落ち着きを取り戻すが、前年と比較すると51%もの値上がりとなった。
日本のコメは本当に不足していた? POSデータで振り返る消費者の動き
 商品別ランキングに目を向けてみると、8月の上位10位には千葉県産のブランドが多く含まれている。これらは2023年にはランクインしていない産地である。週次でみると8月12日週に伊丹産業「千葉県産 ふさおとめ 5㎏」が7位に、26日週には向後米穀「千葉県産ふさこがね 5㎏」が1位となる。千葉県は関東でも代表的な早場米の産地であり、在庫不足を補うため、例年より早めに早場米のブランドを店頭に並べたようだ。コメの不足を見据えた卸、小売りが、早い段階から在庫の確保に奔走した様子が伺える。
 また、関東産は平均価格も高騰しており、例えば9月の向後米穀「千葉県産ふさこがね 5㎏」は2,764円で前年同月の1,481円から87%高となっている。これは例年9月に上位10位以内となるホクレン「ゆめぴりか 北海道産」の前年比43%よりも高い増加率となっている。

 コメ不足、価格高騰については生産者、集荷、卸・小売、消費者、そして国の政策など多くの事情が関わる。この度はデータから読み取れる範囲で何が起こったのかを検証したに過ぎないが、おぼろげながらこの1カ月の騒動について数値上で把握することができた。食料について個々が必要な量を把握し、供給の見通しなどについて情報を得た上で冷静に行動をとることの重要さを改めて実感した。日本の食卓にとって欠かせないコメの動向について、今後も注視していきたい。
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